主要な成果 

超伝導状態では、多数の電子対が同一の量子状態にあって、位相を揃えて運動する。そのために、全体の波動関数を巨視的な位相で記述できる。超伝導体のもつこの位相が、どのような新しい物理現象において見られるのかを理論的に解明することが、私の主な研究課題であった。超伝導の持つ位相干渉、さらにはフェルミ・ディラック統計性が支配する電子の対称性を軸に研究を展開することで、実に多くの研究に携わることができた。


1)異方的超伝導体界面における量子干渉効果


(1)-1
異方的超伝導体のトンネル効果


 超伝導体・常伝導体接合におけるトンネル分光は、超伝導体のエネルギーギャップの大きさを測る重要なプローブとして知られてきた。従来型s波超伝導体・常伝導体接合におけるトンネル分光の理論は存在していたが、d波型超伝導体のような異方的超伝導体のトンネル分光が何を意味するのかは未解明であった。私は、異方的超伝導体・常伝導体接合における微分コンダクタンスの一般理論を構築し、異方的超伝導体のトンネル分光には、内部位相効果が現れることを示した[1,2]。この理論を銅酸化物超伝導体に適応して、銅酸化物超伝導体のトンネル効果の実験でしばしば観測されている零バイアス電圧におけるコンダクタンスピークの起源を解明した。その結果、零バイアスコンダクタンスピークの起源は、界面に形成されるミッドギャップアンドレーエフ共鳴状態(MARS)であることを明らかにした。この研究は、強磁性体と異方的超伝導体との接合[3]あるいはスピン3重項p波超伝導体の理論[4]に拡張された。さらに、FFLO状態のトンネル効果の理論、空間反転対称性の破れた超伝導体のトンネル効果の理論へと発展した[5,6,7]。現在までに、零バイアスコンダクタンスピークは多くの異方的超伝導体で観測され、数多くの銅酸化物高温超電導体(La系、Y系、Bi系、Pr系)、κ-(BEDT-TFF)2XUBe13CeCoIn5SrRuO4、 PrOs4Sb12 超伝導トポロジカル絶縁体CuxBi
2Se3 において観測されている。

 

(1)-2 異方的超伝導体のジョセフソン効果


 銅酸化物超伝導体のd波対称性を考慮した計算を世界に先駆けて行い[8]、従来の s 波超伝導体接合には存在しない性質を明らかにした。ミッドギャップアンドレーエフ束縛状態はジョセフソン電流に重大な影響を与える。接合の配向によっては、ジョセフソン電流は非単調な温度依存性を示すことを予想した[9,10]。これは、温度の低下によって 0 接合からπ接合に変化することに対応する。ここで 0 接合とは接合の自由エネルギーがφ=0で最小になる接合で、π接合は φ=π で最小になる接合である。この理論発表から 5 年後の2001 年にドイツ、イエナの Ilichev らにより、非単調なジョセフソン電流の温度依存性が確認された。さらに最近、イタリア、ナポリの Testa らは、より高い精度でこれを確認している。またジョセフソン電流の位相差依存性にも新しいsin(2φ) などの高調波の成分が強められ[9,10]、その結果、基底状態で自発的に縮退した量子2準位系が現れることを示した。

 

トンネル効果とジョセフソン効果の成果をまとめて出版した総説[11]533件引用されている。

(トンネル効果の代表的な論文)

[1]Theory of tunneling spectroscopy of d-wave superconductors, Physical Review Letters,   Vol. 74, No.17, pp.3451-3454, 1995, Y. Tanaka and S. Kashiwaya. (引用数 790. 

[2]Theory for tunneling spectroscopy of anisotropic superconductors, Physical Review B Vol. 53, No.5, pp.2667-2676, 1996, S. Kashiwaya, Y. Tanaka, M. Koyanagi and K. Kajimura. (引用数 253. 

[3]Spin current in ferromagnet - insulator - superconductor junctions, Physical Review B, Vol. 60, No. 5, pp.3572-3580, 1999, S. Kashiwaya and Y. Tanaka, N. Yoshida and M. Beasley. (引用数 196. 

[4]Theory of tunneling spectroscopy in superconducting  Sr2RuO4, Physical Review B, Vol. 56, No. 13, pp.7847-7850, 1997, M. Yamashiro, Y. Tanaka and S. Kashiwaya. (引用数 91

[5]Theory of tunneling spectroscopy in the Larkin-Ovchinnikov state, Physical Review Letters, Vol. 98, No. 7, 077001_1-4, 2007, Y. Tanaka, Y. Asano, M. Ichioka and S. Kashiwaya(引用数 14.

[6]Intrinsically s-wave like property of triplet superconductors with spin-orbit coupling, Physical Review B (Rapid Communications), Vol. 72, No.22, 220504_1-4, 2005, T. Yokoyama, Y. Tanaka and J. Inoue (引用数 50.

[7] Andreev bound states and tunneling characteristics of a non-centrosymmetric superconductor, Physical Review B, Vol. 76, 012501_1-4, 2007, C. Iniotakis, N. Hayashi, Y. Sawa, T. Yokoyama, U. May, Y. Tanaka and M. Sigrist (引用数 45.

 

(ジョセフソン効果の代表的論文)

[8]Josephson effect between s-wave and dx2-y2 wave superconductors, Physical Review Letters Vol.72, No.24, pp.3871-3874, 1994, Y. Tanaka (引用数 112.

[9]Theory of the Josephson effect in d-wave superconductors, Physical Review B (Rapid Communications) Vol. 53, No.18, pp.11957-11960, 1996, Y. Tanaka and S. Kashiwaya (引用数 220.

[10]Theory of Josephson effects in anisotropic superconductors, Physical Review B Vol. 56, No. 2, pp.892-912, 1997, Y. Tanaka and S. Kashiwaya (引用数 250.

 

(2)異方的超伝導体の近接効果


 近接効果とは、常伝導体・超伝導体接合系で超伝導体の電子対が常伝導体に侵入する現象である。その結果、接合系の合成抵抗は大きな影響をうけることが知られている。 これについては、1990年代初めに旧ソビエト、ヨーロッパを中心として研究された。しかし異方的超伝導体接合の合成抵抗に関する理論はこれまで皆無であった。そこで、乱れた常伝導体(平均自由行程が常伝導体の長さよりも短い拡散伝導に従う系)・異方的超伝導体接合の電気伝導理論を構築した[1,2]。南部-ケルディッシュグリーン関数法を用いて常伝導体の中での不純物散乱の効果を考慮して異方的超伝導体接合のコンダクタンスを計算する一般論を提案した。ケルディッシュグリーン関数の方法を用いる必要があったのは、ケミカルポテンシャルが常伝導体の中で空間変化する効果をとりいれなければならなかったからである。本論文中では、常伝導体は平均自由行程よりも長い系、異方的超伝導体ではクリーンな系を仮定し、準古典近似を用いて、南部ケルディッシュグリーン関数から定義される流れの密度(マトリックスカレント)の一般式を導出した[1]

その結果、d 波のようなスピン1重項の異方的超伝導体では、超伝導体界面に形成されるMARSと近接効果は互いに競合するが、スピン3重項p波超伝導体接合では共存し強めあうことが明らかになった[1,2]。また、スピン3重項超伝導体においては、MARSが侵入することで、常伝導体の局所状態密度がゼロエネルギーピークをもつということを示した[3,4]。これは、従来の近接効果では存在し得ない極めて特異なかつ新しい性質である[5]。スピン3重項超伝導体の持つ新奇な近接効果の性質をさらに研究して、電子対を特徴付ける関数である異常グリーン関数が特異なエネルギー依存性を持つことを解明し[5]、局所的に負の超流動密度が現れることが明確になった[5]。さらにMARSと近接効果の共存は、巨大なジョセフソン電流を生み出すことも示した[6]

 これらの研究によってスピン1重項d波の作るMARSとスピン3重項のそれは、根本的に異なることが明確になった。この研究はその後の、奇周波数電子対の理論へと発展することになる。

[1]Circuit theory of unconventional superconductor junctions, Physical Review Letters, Vol. 90, No. 16, 167003_1-4, 2003, Y. Tanaka, Y. V. Nazarov and S. Kashiwaya (引用件数100).

[2]Theory of charge transport in diffusive normal metal/unconventional singlet  superconductor contacts, Physical Review B, Vol. 69, No. 14, 144519_1-16 2004, Y. Tanaka, Y.V. Nazarov, A. A. Golubov and S. Kashiwaya (引用件数81).

[3]Anomalous charge transport in triplet superconductor junctions, Physical Review B, Vol. 70, No. 1, 012507_1-4 2004, Y. Tanaka and S. Kashiwaya  (引用件数 86).

[4] Theory of enhanced proximity effect by midgap Andreev resonant state in diffusive normal metal / triplet superconductor junctions, Physical Review B Vol. 71, No. 9, 094513_1-16, 2005, Y. Tanaka, S. Kashiwaya and T. Yokoyama (引用件数 60).

[5] Anomalous features of the proximity effect in triplet superconductors, Physical Review B (Rapid Communications), Vol.72, No. 14, 140503_1-4, 2005, Y. Tanaka, Y. Asano, A. A. Golubov and S. Kashiwaya (引用件数 35).

[6]Anomalous Josephson effect in p-wave dirty junctions, Physical Review Letters, Vol. 96,

No. 9, 097007_1-4, 2006, Y. Asano, Y. Tanaka and S. Kashiwaya. (引用件数 47).

[7]異方的超伝導体接合におけるトンネル効果の理論の新展開, 固体物理 Vol. 40 10月号, pp. 683-698, 2005, 田仲由喜夫, 浅野泰寛

 

 

(3)超伝導接合における奇周波数超伝導状態

 

 通常超伝導体の電子対の対称性はスピン1重項偶パリティ(s波d波など)とスピン3重項奇パリティ(p波f波など)に分類されることが知られている。しかし電子対は同一時刻に形成されるとは限らない。従来から良く知られている電子対は対波動関数を2電子の相対時間の違いを松原周波数表示した際に、偶関数となっている。しかし同時に奇関数となる電子対も存在しえる。その結果超伝導電子対はより一般的に(1)偶周波数スピン1重項偶パリティ(ESE)状態、(2)偶周波数スピン3重項奇パリティ(ETO)状態、(3)奇周波数スピン1重項奇パリティ(OSS)状態、(4)奇周波数スピン1重項偶パリティ(OTE)状態の4種類に分類される。

私は、並進対称性の破れによって、バルクの超伝導体がこれまで知られているESE状態、ETO状態であるときに、奇周波数電子対が局所的に誘起されることを示した。接合系のように並進対称性のやぶれている系においては、パリティの異なるペアの共存とフェルミディラック統計の要請から界面近傍において奇周波数電子対が一般的に誘起されるのである。バルクに存在しない超伝導体中の束縛状態はこの奇周波数電子対と密接な関係がある。常伝導体・従来型のスピン1重項s波超伝導接合では、常伝導体中にアンドレーエフ束縛状態が有限エネルギーに形成されることが60年代から知られていた。私たちは、この束縛状態は、奇周波数電子対という言葉で表されることが明らかにした[1-2]

 またこの理論をいわゆる異方的超伝導[スピン3重項p波(ETO対称性)、スピン1重項d波(ESE対称性)]に適応すると、接合界面で現れるミッドギャップアンドレーエフ共鳴状態(MARS)の実体が奇周波数電子対であることが再解釈された。スピン1重項d波の作るMARSp波(f波)の奇周波数電子対でスピン3重項p波の作るMARSはs波の奇周波数電子対であり、両者には根本的な違いがあることを示した。これは、界面で誘起される奇周波数の対称性は、バルクの超伝導と反対のパリティを持つことに起因する。スピン3重項p波超伝導体界面で形成されるMARSが奇周波数スピン3重項s波として表されるために、この奇周波数電子対は、拡散伝導領域に侵入することが可能となる[1]。これが異常な近接効果を引き起こすということである。これらの性質を統一的に説明する超伝導近接効果の一般論を構築した[3]。さらにT字型接合を使って、奇周波数s波による近接効果を検出する方法も提案した[4]

さらに接合だけでなく、磁束芯においても奇周波数電子対が存在することを明らかにした。Abrikosov磁束芯の束縛状態は、奇周波数の電子対として表わすことができる[5]。またカイラルp波超伝導体の磁束芯では、カイラリティと磁束の渦度の向きが平行か反平行かで奇周波数電子対の角運動量に変化が表れてトンネル分光に影響を与えることを提案した[6]

これらの成果を集積すると、いかに奇周波数電子対という考え方が広範の問題に表れるかということが理解できる。我々の研究の結果、従来個別の問題として議論されてきた近接効果、アンドレーエフ束縛状態、磁束芯、量子干渉効果などの概念が、「奇周波数電子対」というキーコンセプトによって、統一的に理解されることが示された。まさに奇周波数電子対は不均一超伝導を特徴づけるキーコンセプトといえる。 奇周波数超伝導に関する研究内容は物理学会誌の解説記事としてまとめられた[7]。

奇周波数電子対の問題は超流動ヘリウムでも現れることが予想されており現在新学術領域「 対称性の破れた系におけるトポロジカル量子現象」の中心的なテーマとなって精力的に研究が行われている。


[1]Theory of the proximity effect in junctions with unconventional superconductors,

Physical Review Letters, Vol. 98, No. 3, 037003_1-4, 2007, Y. Tanaka and A. A. Golubov (引用数 84.

[2]Odd-frequency pairing in normal metal/superconductor junctions,  Physical Review B,

Vol. 76, No.5, 054522_1-13, 2007, Y. Tanaka, Y. Tanuma and A. A. Golubov (引用数32).

[3]Anomalous Josephson effect between even- and odd-frequency superconductors, Physical Review Letters, Vol. 99, 037005_1-4, 2007, Y. Tanaka, A.A. Golubov, S. Kashiwaya and M. Ueda(引用数 57).

[4]Conductance spectroscopy of spin-triplet superconductors, Physical Review Letters, Vol. No. 99,No. 6, 067005_1-4, 2007, Y. Asano, Y. Tanaka, A. Golubov and S. Kashiwaya (引用数 24).

[5]Theory of pairing symmetry inside the Abrikosov vortex core, Physical Review B, Vol. 78, 012508_1-4, 2008, T. Yokoyama, Y. Tanaka and A. A. Golubov (引用数 16).

[6]Model for Vortex core Tunneling spectroscopy of chiral p-wave superconductors via odd-frequency pairing states, Physical Review Letters, Vol. 102, 117993_1-4, 2009, Y. Tanuma, N. Hayashi, Y. Tanaka and A. A. Golubov(引用数12).

[7]不均一超伝導系における奇周波数クーパー対, 日本物理学会誌 Vol. 64, 7月号, pp. 527-534, 2008, 田仲由喜夫, 柏谷聡

[8]異方的超伝導とその近接効果 物性研究 Vol. 95 No.2, pp. 113-151, 2010,  浅野泰寛,田仲由喜夫

[9]接合系、「エキゾティックな対称性」 超伝導ハンドブック、第2.172, pp. 204-213,朝倉書店、秋光純、福山秀敏 編集、 田仲由喜夫 柏谷聡

 

(4)強磁性・超伝導接合の近接効果の研究

 

強磁性状態は超伝導接合において様々な現象を引き起こす。超伝導体は従来型のスピン1重項s波で場合でさえも、面白い現象が数多く存在する。私は超伝導体・強磁性絶縁体・超伝導体接合のジョセフソン効果とアンドレーエフ束縛状態をかなり初期の段階で行い束縛状態の作り出す特異な位相差依存性を明確にした[1]。さらにd波超伝導体・強磁性体接合のトンネル効果、スピン流[2]、ジョセフソン電流[3]といった問題を、アンドレーエフ束縛状態の観点から議論した。

Efetov Volkovらの奇周波数電子対の提案に興味を持って、強磁性体が拡散伝導領域にあるとき、強磁性体とスピン1重項s波超伝導体の接合の近接効果を調べた。その結果、準粒子の状態密度がゼロエネルギーピークを持つ条件を明らかにした[4]。さらにゼロエネルギーにピークが現れるときには、奇周波数スピン3重項s波クーパーペアの波動関数の振幅が強磁性体の中で大きくなっていることを明らかにした[5]。また完全スピン分極した強磁性体を介したジョセフソン電流の存在を予言してKeizerらによるジョセフソン電流の実験(Nature誌に掲載)を説明した。この場合は、ジョセフソン電流は奇周波数スピン3重項s波ペアによって運ばれることを示した[6]。強磁性体・超伝導体接合では実に面白い量子現象が期待でき、今日も中心的テーマとして研究を行っている。

 

[1]Theory of Josephson effect in superconductor- ferromagnetic-insulator - superconductor junction, Physica C Vol. 274, Nos.3, 4, pp.357-363, 1997, Y. Tanaka and S. Kashiwaya (引用数 53.

[2]Spin current in ferromagnet - insulator - superconductor junctions, Physical Review B, Vol. 60, No. 5, pp.3572-3580, 1999, S. Kashiwaya and Y. Tanaka, N. Yoshida and M. Beasley (引用数 196.

[3] Phase Dependent Energy levels of Bound states and d.c. Josephson current in Unconventional superconductor / ferromagnetic insulator / Unconventional superconductor junctions, Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 69, No. 4, pp. 1152-1161, 2000, Y. Tanaka and S. Kashiwaya (引用数 38.

[4]Resonant proximity effect in normal metal / diffusive ferromagnet / superconductor junctions, Physical Review B, Vol. 73, No. 9, 094501_1-10, 2006, T. Yokoyama, Y. Tanaka and A. A. Golubov (引用数 22, Resonant peak in the density of states in normal-metal / diffusive ferromagnet / superconductor junctions, Physical Review B, Vol. 72, No. 5, 052512_1-4, 2005.

[5]Manifestation of the odd-frequency spin-triplet pairing state in diffusive ferromagnet / superconductor junctions, Physical Review B, Vol. 75, No. 13, 134510_1-8, 2007, T. Yokoyama, Y. Tanaka and A. A. Golubov (引用数 33. 

[6] Josephson effect due to odd-frequency pairs in diffusive half metals, Physical Review Letters, Vol. 98, No. 10, 107002_1-4, 2007, Y. Asano, Y. Tanaka and A. A. Golubov (引用数 72.

 

 

(5)異方的超伝導発現機構の研究

 

有機超伝導体(1次元、擬2次元)、空間反転対称性の破れた超伝導体、コバルト酸化物、銅酸化物、鉄ヒ素系超伝導体、新奇な奇周波数ギャップ関数の研究と様々な対称性の強相関超伝導の発現機構の研究を行ってきた。そこでは電荷揺らぎ、スピン揺らぎ、フェルミ面のトポロジー、次元性によって様々な対称性を持つ電子対が実現されることが明らかになった。

1次元有機超伝導体(TMTSF2X1979年に発見された古くから知られた超伝導体であるが、発現機構は長年未解明であった。スピン3重項を示唆する実験と、波数 2kf SDW 2kf CDW が共存する事実を同時に説明する必要があった。私は、f波のスピン 3 重項超伝導対称性が実現されることでこれらの事実を説明できることをRPAによる数値計算により示した[1,2]

ハバードモデルの超伝導発現機構の可能性を変分モンテカルロの観点から研究して、その結果を三角格子ハバードモデルへと発展させた[3]。超伝導、金属絶縁体転移、磁性の問題を議論して、擬2 次元有機超伝導体k-(BEDT-TTF)2Xにおけるd波状態の発現と金属絶縁体転移を同時に議論できる波動関数を提案した。[4] さらに電子ドープ超伝導体のd波ペアの変調効果を調べた[5]。擬2次元有機導体の研究では、 変分モンテカルロだけでなく、FLEX計算からも行った。k型だけでなく、β型のET塩の発現機構も調べて名古屋大学応用物理黒田研でおこなわれている実験結果の解析も行った[6]

空間反転対称性の破れた超伝導は、この数年間盛んにおこなわれている研究であるが。スピン軌道相互作用が重要な役割を果たすことが知られていて、理論的に提案されているものはスピン1重項s波とスピン3重項p波の混ざったモデルだけであった。しかし、強相関電子系ではより多彩な状態が可能で、スピン1重項d波にスピン3重項f波の混ざった状態、あるいはスピン1重項d波にスピン3重項p波の混ざった状態が実現されることをRPAおよび3次摂動の計算から明らかにした[7]。3次摂動の計算では、酸化物界面に形成されるゲート電圧で制御される新奇な超伝導の研究を行った[8]

現在、強相関電子系の超伝導発現機構をミクロなモデルに基づいて研究することは非常に多く行われているが、そのほとんどがスピン1重項のd波(s波)やスピン3重項奇パリティであって、これらは偶周波数のギャップ関数を対象としているものばかりである。奇周波数ギャップ関数 すなわち スピン1重項奇パリティ、スピン3重項偶パリティのギャップ関数をミクロに調べた研究はほとんどない。我々は擬1次元電子系、あるいは反強磁性と超伝導が共存する系において、奇周波数ギャップ関数が安定な解として存在することを明らかにした[9]

  鉄ヒ素超伝導体の発現機構に関して世界に先駆けて行い、当該物質の超伝導解明で先導的役割を果たした[10]5バンドモデルとフェルミ面の間で符号を変化するいわゆるs+- モデルの計算を行った。発現機構だけでなく、表面状態[11]、トンネル分光[12]の研究へと発展した。


[1]Microscopic theory of spin triplet f-wave pairing in quasi-one-dimensional organic superconductors, Physical Review B (Rapid Communications), Vol. 70, No. 6, 060502_1-4, 2004, Y. Tanaka and  K. Kuroki (引用数 45.

[2]Effect of interchain interaction on pairing symmetry competition in organic superconductors (TMTSF)2X, Journal of the Physical Society of Japan, Vol.74, No.6, pp. 1694-1697, 2005, K. Kuroki and Y. Tanaka (引用数 20. 

[3]Crossover of superconducting properties and kinetic-energy gain in two-dimensional Hubbard model, Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 73 No. 5, pp. 1119-1122, 2004, H. Yokoyama, Y. Tanaka, M. Ogata and H. Tsuchiura (引用数52.

[4]Superconductivity and a Mott Transition in a Hubbard Model on an Anisotropic Triangular Lattice, Journal of the Physical Society of Japan, Vol.75, No. 7, 074707_1-15, 2006, T. Watanabe, H. Yokoyama, Y. Tanaka, and J. Inoue (引用数 37.

[5]Nonmonotonic dx2-y2-wave Superconductivity in Electron-Doped Cuprates Viewed from the Strong-Coupling Side, Journal of the Physical Society of Japan, Vol.74 No.7, pp. 1942-1945, 2005, T. Watanabe, T. Miyata, H. Yokoyama, Y. Tanaka and J. Inoue.

[6]Roles of Spin fluctuation and frustration in the superconductivity of  β-(BDA-TTP)2X [X=SbF6, AsF6 under uniaxial Compression, Physical Review B, Vol. 78, No. 17, 172506_1-4, 2008, H. Ito, T. Ishihara, H. Tanaka, S. Kuroda, T. Suzuki, S. Onari, Y. Tanaka, J. Yamada and H. Kikuchi.

[7]Enhanced triplet superconductivity in noncentrosymmetric systems, Physical Review B,  Vol. 75, No. 17, 172511_1-4, 2007, T. Yokoyama, S. Onari and Y. Tanaka (引用数 15; Theory of Fulde-Ferrell-Larkin-Ovchinikov state of superconductors with and without inversion symmetry: Hubbard model approach, Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 77 064711_1-8, 2008, T. Yokoyama, S. Onari and Y. Tanaka (引用数 15.

[8] Electrically controlled superconducting states at the hetero interface SrTiO3/LaAlO3, Physical Review B, Rapid Communications, Vol. 80, 140509_1-4,  2009, K. Yada, S. Onari, Y. Tanaka and J. Inoue (引用数 10.

[9] Theory of odd-frequency Superconductivity on a Quasi-one-dimensional Lattice in the Hubbard Model, Physical Review B, Vol. 79, 174507_1-6, 2009, K. Shigeta, S. Onari, K. Yada, and Y. Tanaka (引用数 10).

[10] Unconventional superconductivity originating from disconnected Fermi surfaces in  LaO1-xFxFeAs, Physical  Review  Letters, Vol. 101, 087004_1-4, 2008,  K. Kuroki, S. Onari, R. Arita, H. Usui, Y. Tanaka, H. Kontani, and H. Aoki (引用数 718.

[11] Surface density of states of s_+- wave Cooper pairs in a two-band model, Physical Review B, Vol. 79, 174526_1-6,  2009, S. Onari and Y. Tanaka (引用数 19.

[12]Andreev spectra and subgap bound states in multiband superconductors, Physical Review Letters, Vol. 103, 077003_1-4, 2009, A.A. Golubov, A. Brinkman, Y. Tanaka, I. Mazin and O.V. Dolgov (引用数 24.

 

(6)銅酸化物超伝導体の不純物、磁束まわりの電子状態

 

  d 波対称性の超伝導体におけるペアポテンシャルの符号変化は、超伝導体表面だけでなく、内在する不純物のまわりの電子状態に影響する。t-Jモデルに基づき、Gutzwiller の変分法と平均場近似の範囲で、不純物周辺の共鳴状態を研究し[1,2] UC バークレイの Davis らの実験を説明することに成功した。また不純物周辺での反強磁性磁化の振る舞いを明確にした[3]。また銅酸化物超伝導体の磁束芯のまわりの電子状態の計算を行い、磁束芯のまわりに形成される反強磁性状態、自発的に発現する周回電流の存在を明らかにした [4]。また銅酸化物超伝導体の表面にできるミッドギャップアンドレーエフ束縛状態(ゼロエネルギー共鳴状態 MARS)、時間反転対称性を局所的に破るスピン1重項s波についても、t-Jモデルから計算を行い、強相関効果が存在してもMARSは存在することを確かなものとした[5]

 

[1]Quasiparticle properties around a nonmagnetic impurity in the superconducting state of the two-dimensional t-J model, Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 68, No. 8, pp. 2510-2513, 1999, H. Tsuchiura, Y. Tanaka, M. Ogata and S. Kashiwaya (引用数 37.

[2] Local density of states around a magnetic impurity in high-TC superconductors based on the t-J model, Physical Review Letters Vol. 84,  No. 14,  pp. 3165-3168, 2000, H. Tsuchiura, Y. Tanaka, M. Ogata and S. Kashiwaya.  (引用数 63.

[3]Local magnetic moments around a nonmagnetic impurity in the two-dimensional t-J model, Physical Review B(Rapid Communications), Vol. 64, No. 14, 140501-1_4, 2001, H. Tsuchiura, Y. Tanaka, M. Ogata and S. Kashiwaya (引用数 32.

[4]Electronic states around a vortex core in high-TC superconductors based on the t-J model, Physical  Review B Vol. 68,  No. 1, 012509_1-4, 2003, H. Tsuchiura, M. Ogata, Y. Tanaka and S. Kashiwaya(引用数 18.

[5]Quasiparticle states near surfaces of high-Tc superconductors based on the extended t-J model, Physical Review B, Vol.60, No. 13, pp. 9817-9826, 1999, Y. Tanuma, Y. Tanaka, M. Ogata, and S. Kashiwaya (引用数 57.

 

 

7)量子スピンホール系 トポロジカル絶縁体の理論

  2次元トポロジカル絶縁体の研究として量子スピンホール系の研究を行った。量子スピンホール系では、バルクはエネルギーギャップのある絶縁体であるが境界には、スピンの向きによって異なる方向に進行するヘリカルエッジ流体という量子流体が形成される。この量子流体は、朝永Luttinger流体に比べると自由度の半分になった量子流体である。2つのヘリカルエッジ流体が相互作用をするときに、どのような状態がえられるのかをg-ologyを用いて解析し、可能な相図を エッジ内前方散乱とエッジ間前方散乱の関数として決定した。その結果、スピンギャップを持たないが、ある種の位相が固定化するために、強い密度相関、超伝導相関をもった新奇な量子流体が現れることを明らかにした[1]。また量子スピンホール系と金属との接合で、金属から打ち込まれた電子の持つスピンが散乱の際にどのように影響を受けるのかを調べた。その結果、量子スピンホール系に存在するエッジモードとの共鳴散乱が起こると、スピンが大きく回転することがあきらかになった[2]

 一方3次元トポロジカル絶縁体の表面状態に関する研究も行った。3次元系では、表面にDirac電子系が実現される。このDirac電子系は電子の運動方向とスピンが結合したもので、グラフェンで実現されるDirac電子系とは異なる。トポロジカル絶縁体表面に強磁性体を載せた系での、トンネル磁気抵抗効果の研究を行った。通常のトンネル磁気抵抗効果とは異なり、強磁性体を1つ載せただけでも磁気抵抗効果は大きく表れる。また強磁性体を2つ載せた場合、磁化の向きが互いに反平行の方が、電流が良く流れるという常識に反した効果が存在し得ることも明らかになった[3]

 これらの新奇な量子効果の起源は、エッジで実現される自由度の半分になった電子系に由来するものである。


[1]Giant spin rotation in the normal metal/quantum spin Hall junction, Physical Review Letters, Vol. 102, 166801_1-4, 2009, T. Yokoyama, Y. Tanaka and N. Nagaosa
(引用数 32.

[2]Two Interacting helical edge modes in quantum spin Hall systems, Physical Review Letters, Vol. 103, 166403_1-4, 2009, Y. Tanaka and N. Nagaosa(引用数 17 .

[3]Anomalous magnetoresistance on the topological surface, Physical Review B, Rapid Communications, (Editor’s suggestion) Vol. 81, 121401_1-4, 2010, T. Yokoyama, Y. Tanaka  and N. Nagaosa (引用数 65.

 

 

8)エッジ状態としてのアンドレーエフ束縛状態の研究
 

 空間反転対称性の破れた超伝導体におけるアンドレーエフ束縛状態の解明は超伝導発現機構からも重要であるが、トポロジカル量子現象としても重要である。バルクでは準粒子励起にギャップのあいている超伝導状態の波動関数がそのまま真空とつながることができず、その結果金属状態すなわちアンドレーエフ束縛状態の形成とみなすことができるからである。空間反転対称性の破れた超伝導体(NCS超伝導体)においてスピン1重項のs波とスピン3重項のp波のギャップ関数がスピン軌道相互作用によって混ざっている状態で、アンドレーエフ束縛状態を計算して、トポロジカルなアンドレーエフ束縛状態がスピン3重項のギャップ関数が大きいときに、ヘリカルエッジ状態として形成されることを明らかにした。またこのヘリカルエッジ状態に起因したトポロジカルスピン流の存在を提案した[1]

 ここで現れるヘリカルエッジ状態は量子スピンホール状態のヘリカルエッジ状態とは根本的に異なる。電子励起とホール励起が独立でないために、2つの運動する向きの異なったマヨラナフェルミオンとみなすことができる。マヨラナフェルミオンとは深遠なる粒子で、生成と消滅の区別できないものである。また見方をかえれば、もっとも自由度の少ない原始的な素励起でもある。そこでは、スピンの自由度、進行方向の自由度も凍結され、生成消滅の区別もない。ヘリカルエッジ状態を2つのマヨラナフェルミオンとみなすことで、ヘリカルエッジ流の特異なトンネルコンダクタンスの計算をおこなった[2]。また、時間反転対称性を破らない分散のない新奇なマヨラナフェルミオンの存在を、スピン1重項のd波とスピン3重項p波の混ざったNCS超伝導体で予言した[3-4]

 マヨラナフェルミオンはトポロジカル絶縁体上に構成される強磁性体・超伝導体接合で現れることが、FuKaneらによって指摘されている。我々はマヨラナフェルミオンを介して流れる準粒子電流のトンネルコンダクタンスの計算を行った。その結果、カイラルp波超伝導体接合と同じようなコンダクタンスが得られた。スピン3重項p波超で伝導体を使わずとも同様の結果が出たことは注目に値する。またこれに関連してジョセフソン電流の計算も行った。マヨラナフェルミオンに起因した異常な磁場方向依存性が得られた[5]。s波だけでなくd波を載せた場合のトンネルコンダクタンス、ジョセフソン効果の計算を行った[6]

 アンドレーエフ束縛状態は実に深遠である。分散をもたない零エネルギーアンドレーエフ束縛状態は(たとえば銅酸化物で得られるゼロエネルギー状態)、トポロジカル量子数を使って整理されることが明らかになった[7]。界面に平行方向の運動量を固定したバルクのハミルトニアンで定義されるトポロジカル不変量は、ゼロエネルギー波動関数のうち正のカイラリティを持つ個数と負のカイラリティの持つ個数の差として表わされる。これはまさに指数定理というもので 幾何学的不変量と解析的な量を結び付けているものである。

 

[1]Topological spin-current in non-centrosymmetric superconductors, Physical Review B, Rapid Communications, Vol. 79, 060505_1-4,  2009, Y. Tanaka, T. Yokoyama, A.V. Balatsky and N. Nagaosa (引用数 67.

[2]Tunneling between two Helical superconductors via Majorana edge channels, Physical Review Letters, Vol. 105, 0564002_1-4, 2010, Y. Asano, Y. Tanaka and N. Nagaosa.

[3]Anomalous Andreev bound state in non-centrosymmetric Superconductors, Physical Review Letters, Vol. 105, 097002_1-4, 2010, Y. Tanaka, Y. Mizuno, T. Yokoyama, K. Yada, and M. Sato(引用数 13).

[4]Surface density of states and topological edge states in non-centrosymmetric superconductors, Physical Review B, Vol. 83, 064505_1-9, 2011, K. Yada, M. Sato, Y. Tanaka, and T. Yokoyama(引用数 12).

[5]Manipulation of Majorana fermion, Andreev reflection and Josephson current on topological insulators, Physical Review Letters, Vol. 103, 107002_1-4, 2009, Y. Tanaka, T. Yokoyama and N. Nagaosa (引用数 111.

[6]Unconventional superconductivity on a topological insulator, Physical Review Letters,  (Editor’s suggestions) Vol. 104, 067001_1-4,  2010,  J. Linder, Y. Tanaka, T. Yokoyama, A. Sudbø, and N. Nagaosa (引用数 120.

[7]Topology of Andreev bound state with flat dispersion, Physical Review B, Vol. 83, 224511, 2011. M. Sato, Y. Tanaka, K. Yada and T. Yokoyama.

 

9)銅酸化物超伝導体における巨視的量子トンネル効果

 

 巨視的量子トンネル効果 (MQT)はジョセフソン接合の位相差のような巨視的自由度のトンネル効果である。これまでは、従来型超伝導接合におけるMQTの研究しか行われていなかった。銅酸化物超伝導体接合における巨視的トンネル効果(MQT)の研究を行った。有効場の理論及びインスタントン法を用いてトンネル確率を解析的に導出し、従来型超伝導体よりも高温領域でMQTが観測可能であることを予測した[1]。最近になってこの理論予測は東北大学、ドイツ・エルランゲン大学、産総研の実験研究により確認された。またアンドレーエフ束縛状態のMQTに与える影響を解明した[2]

[1]Macroscopic quantum tunneling and quasiparticle dissipation in d-wave superconductor Josephson junctions, Physical Review B Vol. 70, No. 13, 132505_1-4, 2004, S. Kawabata, S. Kashiwaya, Y. Asano  and Y. Tanaka (引用数 60.

[2]Effect of zero-energy bound states on macroscopic quantum tunneling in high-Tc superconductor junctions, Physical Review B Vol. 72, No. 5, 052506_1-4, 2005, S. Kawabata, S. Kashiwaya, Y. Asano, and Y. Tanaka (引用数 40.

 

 

銅酸化物超伝導体のゼロエネルギーピークの存在から始まったアンドレーエフ束縛状態の物理は、異方的超伝導体のメゾスコピック系の理論へと発展して、さらに奇周波数電子対の普遍的存在を明らかにした。さらにトポロジカルエッジ状態の観点からマヨラナフェルミオンへの物理へとつながった。
 
25年以上の超伝導理論の研究を振り返ってみると、超伝導の界面でなければ決して起こらないアンドレーエフ反射、近接効果の物理が出発点となって、超伝導の対称性、発現機構、無散逸エッジ流、トポロジー量子現象の物理へと大きく発展している。現在国際的にマヨラナフェルミオンを超伝導体に作り出す物理がさかんになっているが、マヨラナフェルミオンとはアンドレーエフ束縛状態に他ならず、我々のアンドレーエフ束縛状態の研究は現在の流行を先駆けたものであったと言える。


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