物質における量子現象の理論的研究
固体 における多様な電子の振舞いは様々な量子現象を作りだします。本研究室では、多くの電子・原子の集まった系を理論的に研究することで、凝 縮系物理学のフロンティアを解明することを目指しています。 電子 はフェルミ統計に従うために、金属、半導体、絶縁体といった多様な性質を示します。また自発的な対称性の破れにより、磁性や超伝導といっ た現象が起こります。こうした従来の凝縮系物理学の研究に加えて、今日トポロジカル量子物理という新しい領域が広がりつつあります。
トポ ロジーとは連続変形で形を分類する数学の手法です。そこでは、トポロジカル不変量と呼ばれるある種の整数が定義されます。この手法を用い てハミルトニアンや波動関数を分類することで、トポロジカルに非自明な物質が整理されています。例えばトポロジカル絶縁体という表面だけ 金属的な性質をもつが内部は絶縁体という物質が最近発見されて、この分野が爆発的に広がっています。トポロジカル絶縁体には周辺物質とし て、異常ホール系、トポロジカル結晶絶縁体、ワイル半金属などトポロジカルに非自明な物質があります。こうした系は、スピントロニクスの 新しい材料として興味を集めています。
その一方で、トポロジカルに非自明なエッジ状態をもつ超伝導体(トポ ロジカル超伝導)も興 味を集めています。そこでは、マヨラナフェルミオンという生成と消滅の区別のできない特異な準粒子がエッジ状態として現れます。このマヨラナフェルミオンのも つ非局所的相関効果は将来の量子計算に役立つといわれています。トポロジカル量子物理は、トポロジカル絶 縁体、超伝導体、超流動ヘリウム3、冷却原子気体など様々な系で研究され、フェルミオン、ボゾンだけでなく新しい統計性を持つ粒子の存在 も予言されています。
我々 は、トポロジカル量子現象の研究を広く研究して(固体の電子系から冷却気体のような原子系まで)量子物理学のフロンティアを切り開く国際 的に卓越した研究拠点の形成を目指しています。 スタッフや大学院生と協力して、第一線の研究に積極的に参加し、新しい物理を切り開く意欲的な学生を歓迎いたします。研究室の中だけでなく、国内、海外の主要な研究室との共同研究が非常に活発に展開されています。
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現在の主要テーマ
・トポロジカル超伝導の理論
・超伝導接合系の理論
・冷却原子気体の理論
・スカーミオンの理論
・超伝導における新奇な対称性の理論
・トポロジカル絶縁体,トポロジカル結晶絶縁体の理論
・ボーズ粒子系におけるトポロジカル量子現象の理論
・ワイル半金属,ディラック半金属の理論
・単原子層物質の理論
・軸性流(アキシャルカレント)などの新しいスピントロニクスの理論
最近の主要な成果
- 多軌道超伝導体の接合系の理論
- 奇周波数超伝導体の理論
- トポロジカル絶縁体の理論
- トポロジカル物質の超伝導状態における理論
- トポロジカル物質の分類理論
- マヨラナフェルミオンの理論
- スピントロニクスの理論
今後の目標
固体の中の電子は無数に存在していますが、それらは対称性という観点で整理することができます。
磁性、超伝導といった現象は自発的に対称性の破れた系として理解されています。さらに超伝導を分類するうえで、スピン、空間パリティ、時間といった概念が非常に重要となります。ナノ構造の超伝導系あるいは強磁性体との接合では対称性の破れが重要な役割を果たす結果、奇周波数電子対というエキゾティックな状態が現れます。
他方、電子の持つ位相は波動関数の一価性から、トポロジカルに特徴づけられる量子現象を作り出します。これまでに超伝導体・超流動体の渦の量子化、Aharonov-Bohm効果に始まり、量子ホール効果、分数量子ホール効果などがあげられます。量子スピンホール系、トポロジカル絶縁体は、量子ホール系と同様にバルクで非自明な絶縁体状態が実現されるために、エッジでは必ず金属状態をとらないといけないことが明らかになりました。
近年、同様のエッジ状態が超伝導体の界面表面で実現されることがわかりました。これらのトポロジカルに非自明な系を研究することは、基礎的な観点だけでなく、無散逸電流 無散逸スピン流の制御とも関係して非常に将来性のある問題です。
我々はこうした対称性の破れたトポロジカル量子現象の研究を様々な角度から研究して新しい学問分野の構築を目指しています。新奇な対称性やトポロジカル量子現象を解明して、あたらしい量子効果、機能を理論的に研究しています。
これまでの成果
超伝導接合・不均一系の理論
- 銅酸化物超伝導体(d波超伝導体)のトンネル効果の理論(1995)
- d波超伝導体のジョセフソン効果の理論(1997)
- 超伝導体・強磁性体・超伝導体接合の理論(1997)
- d波超伝導体・強磁性体接合の理論(1999)
- 不均一強相関超伝導体の理論(表面 拡張Hubbard)(1997)
- 不均一強相関超伝導体の理論(表面 t-Jモデル)(1999)
- 不均一強相関超伝導体の理論(不純物 t-J)(2000)
- 不均一強相関超伝導体の理論(磁束 t-J)(2003)
- 銅酸化物超伝導体の巨視的量子トンネル効果(2004)
- 銅酸化物超伝導体の巨視的量子トンネル効果(2006)
- 異方的超伝導近接効果の理論(1)
- 異方的超伝導近接効果の理論(2)
- 奇周波数電子対の理論(2007)
- 強磁性体接合と奇周波数電子対の理論(2007-)
- 分散を持たないマヨラナフェルミオンとトンネル効果の理論(2010)
- 奇周波数ペアの作りだす異常マイスナー効果の理論(2011)
- 鉄ヒ素系超伝導接合の理論(2013)
- Sr2RuO4超伝導体接合の理論(2014)
- 超伝導トポロジカル絶縁体接合のトンネル効果の理論(2014)
- 超伝導ワイル半金属のトンネル効果の理論(2015)
超伝導発現機構の理論
- 擬1次元有機超伝導体の発現機構の理論(2004-2005)
- 電子ドープ高温超伝導の理論(t-J model)(2005)
- 有機伝導体とモット転移の理論(2006)
- 鉄ヒ素系超伝導の発現機構の理論(2008)
- 反転対称性を破る超伝導の理論(2008)
- 界面強相関超伝導の理論(2009)
- 擬1次元有機超伝体とFFLOの理論(2009)
- 奇周波数超伝導体の理論 擬1次元系(2009)
- 軌道揺らぎによる超伝導発現機構の理論(2009-)
- 奇周波数超伝導体の理論 擬1次元系(2011)
- バーテックス補正と多軌道超伝導の理論(2012-)
- 奇周波数超伝導の理論 反強磁性との共存(2012-)
- 奇周波数クーパーペアの理論 DiaとPara (2014)
トポロジカル絶縁体に関連した主要な成果
- 量子スピンホール系の巨大スピン回転角度(2009)
- トポロジカル絶縁体上の超伝導接合の理論(2009-)
- トポロジカル絶縁体における磁気抵抗効果(2010)
- ヘリカルフェルミオン系の相互作用の理論(2009)
- トポロジカル結晶絶縁体の薄膜効果の理論(2014)
- シリセンにおける磁気抵抗効果の理論(2013)
- ワイル半金属における軸性流の理論(2015)
トポロジカル超伝導に関連した主要な成果
- ヘリカルマヨラナフェルミオンによるスピン流(2009)
- マヨラナフェルミオンを介したトンネル効果の理論(トポロジカル絶縁体接合上の超伝導強磁性体接合(s波))(2009)
- マヨラナフェルミオンを介したトンネル効果の理論(トポロジカル絶縁体接合上の超伝導強磁性体接合(d波))(2010)
- 分散を持たないマヨラナフェルミオンとトンネル効果の理論(2010)
- 分散を持たないマヨラナフェルミオンの理論(2011)
- アンドレーエフ束縛状態と指数定理の理論(2011)
- ヘリカルマヨラナフェルミオンのトンネル効果の理論(2010)
- DoubleRashba系におけるヘリカルマヨラナフェルミオンの理論(2012)
- Rashba超伝導体における量子臨界現象の理論(2011)
- 超伝導異常量子ホール絶縁体の理論(2011-)
- 超伝導トポロジカル絶縁体の理論(トンネル効果)(2012)
- 超伝導トポロジカル絶縁体の理論(ジョセフソン効果)(2013)
- 超伝導トポロジカル絶縁体の理論(帯磁率、比熱)(2013)
- トポロジカルBlountの定理 LineNodeの安定性
- マヨラナフェルミオンと奇周波数超伝導の理論(2013)
- 結晶対称性によるトポロジカル超伝導の理論(2013)
- 超伝導トポロジカル絶縁体接合のトンネル効果の理論(2014)
- 超伝導ワイル半金属のトンネル効果の理論(2015)
- マヨラナフェルミオンと奇周波数超伝導の理論(Shiba Chain)(2015)